
診療科目の特性に寄り添うクリニック設計が、
信頼と選ばれる理由をつくる
クリニック設計の正解は“ひとつ”ではない
新しくクリニックを開院する際、設計や内装に関して「清潔感が大事」「明るい空間が好ましい」といった一般論がよく語られます。しかし、果たして本当にそれだけで十分でしょうか。クリニックに訪れる患者様の背景や心情は、科目によってまったく異なります。小児科を訪れる保護者と子ども、心療内科に来院する人、整形外科でリハビリを受ける高齢者、それぞれが空間に求める“安心感”のカタチは違うのです。
つまり、クリニック設計においては「何科であるか」「どのような患者層を対象としているか」を正しく理解し、それに応じた空間づくりが必要不可欠です。空間そのものが診療体験の一部となる時代。患者様に寄り添った設計こそが、選ばれるクリニックを支える土台となります。
診療科ごとの“空間ニーズ”を深掘りする
小児科──親子にとっての“安心基地”となる設計
小児科では、まず子どもにとって「怖くない空間」であることが重要です。カラフルでやわらかいトーンの配色、丸みのある家具や壁面デザインなど、視覚的に親しみを感じさせる工夫が有効です。また、待合室に簡易的な遊びスペースを設けたり、親が目を離さずに済むようなレイアウト設計もポイントです。
さらに、ベビーカーがスムーズに通れる廊下幅、授乳室やおむつ替えスペースの導入など、保護者に対する細やかな配慮も欠かせません。感染症対策として、発熱者専用の待機スペースを設けるなど、動線の分離も求められる要素です。
皮膚科・美容皮膚科──“見た目”と“内面”への配慮
美容皮膚科や一般皮膚科では、プライバシーが非常に重視されます。肌に関する悩みはセンシティブな内容であることも多く、カウンセリングや施術室が待合スペースから視覚的・聴覚的に隔離されていることが信頼につながります。
また、内装のトーンは無機質すぎると冷たい印象を与えがちですが、優しい間接照明とナチュラルな木目素材などを用いることで、落ち着きと上質感を演出することが可能です。来院者が「ここでなら安心して任せられる」と思える空間を目指すことが鍵です。
整形外科・リハビリ科──身体の機能回復を支える空間
整形外科やリハビリ科には、高齢者や身体に不自由を感じている方の来院が多くなります。通路の幅を確保すること、滑りにくい床材を使用すること、視認性の高いサイン計画を行うことなど、ユニバーサルデザインの要素を積極的に取り入れる必要があります。
特にリハビリスペースでは、「器具の配置」と「歩行動線」がぶつからないよう、緻密なゾーニングが求められます。また、必要に応じて昇降機や多目的トイレの設置も検討すべき要素となります。
心療内科・精神科──音、光、距離感すべてが診療の一部
精神的な不調を抱える患者様にとって、クリニックの空間そのものが安心できる“避難場所”であることが理想です。受付が開放的すぎたり、他の患者様と視線が交差しやすい構造だと、それだけで足が遠のいてしまうこともあります。
したがって、待合室にはパーテーションや可動式の間仕切りを用いた「ゆるやかなプライベート感」が効果的です。診察室には防音性能を持たせ、患者様が安心して話せるような設計が求められます。内装も、白ではなくアースカラーなどの沈静トーンを選ぶことで、視覚的な緊張を和らげることができます。
“万人向け”では伝わらない、患者様への想い
これらの事例からも分かるように、「万人受けする空間」は時として「誰にも刺さらない空間」となり得ます。患者様の心に届くクリニック設計とは、その診療科ならではの機能性と、患者心理への共感に基づいた空間づくりにあります。設計者と医療提供者がともに“患者様の視点”を持ち、ディテールまで丁寧に設計された空間には、自然と信頼感が宿るのです。
空間そのものが、医療の質を引き上げる
リニックにおける設計は、単なる「ハコづくり」ではありません。それは、そこで診療を受ける人、働く人、訪れる人すべてにとっての“体験の場”であり、医療そのものを支える存在でもあります。診療科目に最適化された設計は、ブランド力と差別化を生み、地域に根ざした信頼ある医療機関へと導く第一歩なのです。